密林の楽士
嘆かわしく長引く雨の夜更け
時空を操るタクトが振り下ろされ
月明かりの下に集いし楽士は
気もそぞろに音を紡ぎ出す
やがて鬱蒼と茂る緑の狂気が
盲目的な愉悦へと導き
むせ返るほどの極彩を放つ
奇天烈な花を咲かせるでしょう
ようこそ密林の魔境へ
霊魂漂うペイズリーの迷宮では
熱帯にひしめき合う生き物すべてが
音楽と共存し浮遊するのです
さあ さあ 来たれ 誰(たれ)?
そこでは草花も ゾウリムシも
胎児でさえも一緒くたの…
(ヤノマミ族の鎮魂歌)
勾玉に 込めた祈り
帰らぬ人の歌
選ばれて生まれ出でしもの
白蟻の巣に納め
精霊のまま
燃えて燃えて召されます
ジリリ 夜空を焦がし
地上より仰ぐツーチントン
さて 漆黒の闇の空に
もぞもぞと蠢く気配が
不意にツーっと流れ落ち
チントン賑やかしく始まったのは
歌垣のようなものでしょうか
機敏なナマケモノに
控えめなジャガー
そして直立歩行するワニまでもが
カーっとのぼせ上がり
滝壺に横たわる星が
明るさを失うまで
ハイブリッドな掛け合いを楽しむのです
ぬかるみの不穏の渦から
根を生やすマングローヴは
剥き出しのいびつさをそのままに
シンメトリックな影を水面に添わせ
絶えず番い合い
手を取り足並みを揃え
エスコートしながら移動していくのを
ご存知でしょうか
重力に支配されたリズムから
解放された楽士らは
途端に頰を紅潮させ
次第にその長い脚から
爪先まで赤みを帯び
いやはやついには片足立ちで
フラミンゴのポーズに堂々落ち着くのです
(フラミンゴの子守歌)
群れをなし
重ね合う紅色の
いくつもの 夢を乗せ
水辺に眠れ
(一本足のジョングルール)
赤い頭巾を被り
悪戯に耽る妖怪になった楽士は
つむじ風を引き起こして
小気味よく 魔術を披露する
楽団員のうち何人かは
一本足で独立し
れっきとしたサッシペレレとして
無邪気にパイプをふかし
不気味な調べを奏でては
よそ者を驚かせたり
ジャングルの自然を守りながら
気ままにやっているそうです
一方 大蛇を首に巻きつけた
半魚人ヤクルーナに連れ去られた一行は
川底のサイケデリアに飲み込まれ
謎の宴に明け暮れているのでした
(水面下のお座敷唄)
水中神秘の都市に
呼ばれたからにゃ
踊って飲んで
もてなしたるは人魚たち
はよ来いな
ここで一興 乙女の純情
「いつまでも居ておくんなましよ」
それで一言 渡り鳥の心得
「わしら流しの旅芸人さ」
ジョングルール
Jungle Jongleurs
Saravah(さらば)
初演:2021年11月18日 トーキョーコンサーツ・ラボ
松井慶太プロデュース ストラヴィンスキーの「兵士の物語」+伊左治直「密林の楽士」
演奏:尾池亜美(ヴァイオリン)、地代所悠(コントラバス)、東紗衣(クラリネット)、中川日出鷹(ファゴット)、
菊本和昭(トランペット)、村田厚生(トロンボーン)、新野将之(打楽器)、新美桂子(歌・語り)、松井慶太(指揮)
作曲:伊左治直