機関二人猩々(三軒茶屋篇)
- 新美桂子
- 2022年9月25日
- 読了時間: 2分
更新日:2022年10月1日
雨乞い、五穀豊穣、商売繁盛の御利益を得る為、
ここに参詣に向かう者たちの往来で賑わう、三軒の茶屋があった。
ある夜 お告げの夢を見て、その地で酒を売り始めた私は、
いつしか財を成し、魅惑の飲み屋街を築き上げた。
バラックの群れに 赤提灯
闇市の名残 三角地帯
そこに度々現れる、「猩々」と名乗る者がいた。
何杯飲んでも、顔色ひとつ変えない底なし上戸である。
浮世離れした風貌、異様な倍音を含む声、
しかしながら不思議と人懐こい、奇妙で無邪気な呑兵衛だ。
影をたたえる盃を傾け、今宵もその常連客を待ってみるとしよう。
なみなみ盃に 菊水を注げば
映る我が身も 老いることはない
浮かびくる月も 酒のお供にぴったりだ
客人「猩々」のお出ましだ。酒ならたっぷりある。
まずは酒のその徳を、大いに語って聞かせやしょう。
酒は百薬の長。お正月にお屠蘇、三月“弥生”の頃は桃酒、五月“皐月”には菖蒲酒。
七百歳の仙人・彭祖が呑んでいたのは菊酒ときた。
さらに葡萄酒、養命酒、保命酒、薩摩の国の泡盛、次から次へと飲み干して、
我らも長寿を願い、いざや酒を酌み交わそうじゃないか。
ゆうらく通りに三茶3番街、続くエコー仲見世商店街、
踊りながら渡り歩き、ハシゴ酒も、これで三軒目。
お囃子には鈴虫の声、雨粒の屋根に弾ける音は鼓、
夜風に寄り添い、秋の調べに身を任せましょう。
友の証に授けよう。尽きることのない永遠を。
路地裏の 迷宮に遠ざかる笑い声、彷徨える千鳥足。
竹の葉の露が溜まるように、抱いた壺に湧く酒は、
いつまでも尽きることがなかった。
初演:2019年11月2日 テッセラ音楽祭第25回「新しい耳」第2夜【伊左治直・個展 〜黒白城の宴〜】
演奏:廻由美子(ピアノ・朗読)、高橋悠治(ピアノ・朗読)、伊左治直(朗読)
作曲:伊左治直
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