カランの歌
- 新美桂子
- 5月5日
- 読了時間: 2分
日本人の温泉への愛。
それはどこの国よりも深くてね、
あー自慢だよ。
昔も今も生活の中に浸透している、
天然の身近な宗教かもしれないね。
ヨーロッパに教会音楽があるなら、
日本に温泉音楽があってもいいな。
掛け流しの洗礼を浴びれば誰しも、
歌いだしたくなるでしょう。
讃美の歌を。
どっしり高座に構える番台さんは悟り顔、
さては神様の使いの者かしら。
暖簾分けを許されたなら、続く道は開けるのかしら。
脱衣所では何もかも、厄介を脱ぎ捨てて、
結界を越えればそこは、湯気立ち込める桃源郷。
まさに湯ートピア。
大浴場か大聖堂か、天上に満ちる言霊と、
鳴り響く神聖な、カランの音。
カランカラン…
柔らかな風纏う匂い。
それはどこか懐かしく、身に沁みる。
ああ湯の町よ。
四季折々の彩りの中に染まる人の声、
空高く煙も神々しく棚引いてた。
そっと目を閉じたなら浮かぶよ、
めいっぱいの湯畑の国。
奥座敷に息づく自然の恵みが、
まるで魔法のように、
解き放たれて。
語り継がれる伝説、先人からの贈り物。
幻でもいい。信じてみようかしら。
原泉から湧き溢れ出る、夢のような湯舟に揺られて、
露天の風情漂う空間に、魅せられた瞬間に黄昏る空。
湯ノ花舞えばオーヴァーフロー。
巡る巡りゆく…
日暮れの街へ繰り出す頃、石段に響く下駄の音。
足繁く行き交わす、カランカランと。
カランカラン…
初演:2014年9月7日 青山スパイラルホール
和の魅力発見シリーズ Traditional+(トラディショナルプラス)【vol.5】Voice Surfing 声の系譜
演奏:室生述成(聲明)、観世喜正(謡曲)、木津茂理(民謡)、坂本美雨(ポップス)
作曲:伊左治直「ユメノ湯巡リ声ノ道行」
公開:2016年04月13日(ディスクユニオン)「Banda Choro Eletrico」収録
(演奏:バンダ・ショーロ・エレトリコ)